手話で「金よこせ」 聴覚障害者ばかりの暴力団、弱者を脅す驚きの手口

「週刊文春」編集部 2018/10/20

 聴覚障害者の老人を食いものにしていたのは、同じ聴覚障害者のヤクザだった。

【写真】阿部太容疑者。取り調べも手話で行われる

 警視庁組織犯罪対策特別捜査隊は10月12日、強要容疑で、指定暴力団住吉会系暴力団組長、阿部太容疑者(54)と妻で韓国籍の李蕙英(イヘイヨン)容疑者(44)ら男女3人を逮捕したと発表した。事件について警視庁担当記者が解説する。

阿部太容疑者(テレビ朝日「ANN NEWS」より)
「容疑は昨年6月、聴覚障害者の女性(65)を手話で脅し、李容疑者と以前同居していた男性(82)を連れ戻す、との約束文を無理矢理書かせたというものですが、この話には前段があります。阿部容疑者らはこの男性と聴覚障害者のグループで知り合った後、身の回りの世話をすると称し、預かっていた預金通帳の口座から勝手に現金を引き出していた疑いもある。それに気付いた女性が東京都内の区役所に相談して、区が男性を隔離。阿部容疑者らが男性を奪い返そうとしたのです」

「被災で困ってるから金をよこせ」と手話で
 率いる組の組員はほとんどが聴覚障害者で、阿部容疑者は5年前にも逮捕されている。被害者はやはり聴覚障害者。「東日本大震災の津波で家が流された。困ってるから金をよこせ」などと、被災をダシに手話で脅していたという。同じ聴覚障害者コミュニティーで、一方では組員を集め、他方では被害者を物色してきたわけだ。

 内閣府によると、全国の聴覚障害者の数は2013年時点で30万人弱。このなかにヤクザの組が存在すること自体が驚きだが、ほかにもそんな組は存在するという。

「阿部容疑者は全国で2番目の勢力を誇る住吉会傘下でしたが、最大勢力の指定暴力団山口組でも、聴覚障害者ばかりの組が検挙されています。極東会系暴力団の聴覚障害者の組員の場合は、聴覚障害者相手の大型詐欺事件で検挙されただけでなく、民事裁判ではトップの極東会元会長までが訴えられ、全国で初めて組員の詐欺事件にトップの賠償責任を認める判決も出ています」(同前)

 捜査関係者は「丁寧な取り調べが大事」と語る。

「聴覚障害者の取り調べには手話の通訳官が必要。被害者も含め、手話でいかに犯行を裏付ける証言を引き出せるかがポイントです」

 他にも阿部容疑者らと同居していた聴覚障害者がいたといい、組特隊は彼らが被害を受けていないかを調べている。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2018年10月25日号)

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