人生最終段階の医療「ACP」注目 事業推進の大橋基岡山県医師会理事に聞く

山陽新聞 2018年10月3日

 「ACP」―。アルファベット3文字が医療・福祉関係者のキーワードになりつつある。「アドバンス・ケア・プランニング」の頭文字で、人生の最終段階の医療・ケアについて、患者と家族、医師、看護・介護従事者らが対話を重ね、あらかじめ方針を決めておくことを意味する。一般にはなじみの薄い概念を理解してもらおうと、厚生労働省が愛称を募集(締め切り済み)し、近く決定する予定だ。岡山県でも県医師会が医療者を対象にしたACPの研修会を開くなど、取り組みが広がっている。どのようにして患者の希望や価値観に沿った最期の在り方を実現するのか、県医師会で中心になって事業を推進している大橋基理事に尋ねた。

 ―終末期医療の現場では、どのようにACPに取り組むのか。

 私たちはACPに基づき、患者さんに病状を正しく理解していただけるように丁寧に説明する。十分な情報共有が大切。その上で、命に対する考え方、治療内容、最期を迎える場所などの希望を聞き、家族、ケアスタッフらも交えて話し合いながら決めていく。(「話し合いの進めかた」参照)。患者さんは差し迫った状況を意外に認識できていない。残された時間をどう過ごすかじっくり考えていただく。気持ちが揺れ動いたり変化したりするかもしれないし、病状も変わる。
 話し合いは1回ではなく繰り返し行い、その時その時で患者さんに最も適切なものは何か、みんなで考え、探し当てる。揺れる心に対応することで、本人も家族も満足度が高まる。話し合うプロセスがすごく大事だと理解している。

 ―ACPはどんな経緯、背景から生まれたのか。

 もともとは欧米で取り入れられてきた。日本は年間死亡者約134万人(2017年推計)という多死社会を迎えており、25年には団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になる。今までのやり方で最期を看取(みと)ることができるだろうか。全ての病気を治すことはできない。しかし、準備をしておけば、望む形で最期を迎えられる可能性が高まる。人生の最後に訪れる死に対し、逃げずに向き合うことが求められている。

 厚生労働省は今年3月、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改定した。その中にもACPの考え方が盛り込まれている。最終段階での過剰な医療を減らし、膨らむ医療費を抑制したいという意図もあるだろう。

 ―「リビングウイル」もACPと考え方が似ている。

 リビングウイルは患者さん本人の意思決定を指す。意識がなくなったときにどんな治療を望むかを自分で決め、事前に書面で意思表示しておく。

 ―県医師会が昨年行った医療関係者の意識調査では、ACPを実践しているのは2割弱にとどまった。

 実践はしていないが検討しているとの回答を合わせると、半数以上が関心を持っていると言える。死をタブー視せず、患者さんらと話ができるようになってきたという気がする。でもまだ十分とは言えない。

 ―ACPの普及・啓発を進めていくため、患者側の理解も欠かせない。

 県医師会としては、医師らを対象にした研修会を継続する。市町村も手引書を作るなど取り組んでいる。これらも利用し、地域住民に正しく理解していただけるよう説明していく。松山正春会長が地域に出向いて住民と話し合う県医師会移動会長室「会長がゆく! 虹色サロン」を新たに始め、ACPも取り上げている。マスコミなどを通じた情報発信も積極的に展開したい。

 ―ご自身は、人生の最終段階における医療について、どのように考えるか。

 「少しでも長く生きることが大事」「可能性があるならどんな治療も受けたい」という患者さんもいるし、「痛みや苦しみは取ってほしいけれど、それ以上の抗がん剤や気管挿管はいらない」「最後まで自宅で過ごしたい」という患者さんもいる。どれが正しいとは言えない。
 十分な情報を得て、話し合って決めたのなら、みんなが尊重すべきだ。限りのある人生。自分の最期を自分である程度決めれば、満足度が高いのではないだろうか。患者さん一人一人に応じた最善の医療を提供し、希望に寄り添っていきたい。

■「実践」「検討中」が半数超 研修会参加者意識調査
 ACPについて、岡山県医師会は昨年、研修会に参加した医療・福祉関係者らを対象に初めて意識調査を行った。ACPを「実践している」と「検討中」を合わせると半数を超えており、県医師会は「関心の高さが表れている」と受け止める。限られた対象での調査で、医療・福祉関係者全体の意識は捉え切れておらず、引き続きACPの周知・普及に努めていく。
 調査報告によると、回答した114人のうち、ACPを実践しているのは21人。実践していないのは70人で、そのうち「検討中」は39人、「検討していない」は26人だった。
 死期が近い患者の医療・療養について、患者本人との話し合いを「十分行っている」が16人、「一応行っている」45人、「ほとんど行っていない」は21人だった。話し合いの内容(複数回答)は「人生の最終段階の症状、治療の内容や意向」が51人、「人生の最終段階を過ごせる施設・サービスの情報」「本人の気がかりや意向」がそれぞれ41人、「本人の価値観や目標」27人―などだった。
 本人の意向を尊重した人生の最終段階における医療の充実のために何が必要か―との問いには、「医療・介護従事者への教育・研修」「本人・家族等への相談体制の充実」「話し合った内容について本人・家族等や医療・介護従事者等の共有の仕方」などの回答が多かった。
 調査は県医師会が昨年10月に津山市、11月に岡山市で開いたACPの研修会で、出席した医師、保健師、看護師、社会福祉士、精神保健福祉士ら166人を対象に実施した。

 おおはし・もとい 津山市出身。津山高校、鳥取大学医学部卒。大橋内科医院(岡山市北区一宮)院長。御津医師会会長を務めた。今年6月から岡山県医師会理事。64歳。

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