失敗例から学ぶ薬局・介護施設M&A(3)看護師への苦⼿意識があだに? 退職相次ぎ⾝売りへ

キャリアブレインマネジメント 2018年08⽉22⽇

【株式会社CBパートナーズ・ディレクター 佐藤⽂哉】
 6年に1度の診療報酬と介護報酬の同時改定は、何か⼤きな変化や予兆が⾒られるような気がします。2018年4⽉の同時改定も期待していましたが、ふたを開けてみると「収⽀差率」という⾔葉を盾に、財務省が財源の削減を狙うのはいつもの通りでした。
 介護関連では、通所介護と訪問系事業が前回に引き続きマイナス改定となりました。例えば通所介護では、⽣活援助サービスにメスが⼊りました。従来は2時間ごとに設定されていた基本報酬のサービス提供時間が1時間ごとに⾒直されたほか、訪問介護で⽣活援助中⼼型(20分以上45分未満)が183単位から181単位に引き下げられました。
 M&Aは「地域の医療・介護インフラの永続性」をかなえる⼿段の1つだと私は考えています。介護事業者は、報酬改定による影響をあらかじめ予測して対策を打たなければ、事業を継続することはできません。
 今回は、介護業界に付きまとう「報酬改定」「⼈材採⽤」「管理」という課題を、M&Aという問題解決法と⼀緒に実例で紹介します。

■従業員の採⽤は事前に対策を
【事例1】看護師の配置基準が満たせなくなった訪看ステーションAの場合
 リハビリ職の代表が4年前に⽴ち上げた訪問看護ステーションの事例を⾒ていきましょう。
 訪問看護事業所の経営では、代表が看護師であれば看護職が、リハ職であればリハ職が定着しやすいとされています。
 これは、代表が従業員の業務を想像しやすいからです。また、職場環境から営業まで代表と同じであることが、従業員にとって勤務するメリットにつながりやすいからだと思います。Aは、まさにそのケースに当てはまる事業所でした。
 Aの代表は、職員採⽤の課題と事業譲渡の相談を2年ほど前から受けていました。看護師に対する代表の苦⼿意識も影響してリハ職の採⽤が増えましたが、それと反⽐例するように看護師が次々と退職しました。
 それでも、看護師の配置基準(2.5⼈)を何とか維持できていたのですが、今回の介護報酬改定で訪問看護ステーションからのリハ職の訪問について、看護職員との連携が確保できる仕組みが導⼊されたことにより、リハ職との同⾏が看護師の負担となり、配置基準を維持できなくなりました。
 訪問看護ステーションが認可指定を維持するには、看護師の配置基準を満たさなければなりませんが、その代表は看護師への理解が不⾜していたために採⽤が難航し、結果的に譲渡するしかない状況に陥りました。
 Aの場合、もう少し前に対策を講じていれば、利⽤者や従業員に迷惑を掛けることなく事業を継続できたでしょう。仮に事業所を売却するにしても、好条件での買い⼿が⾒つかったかもしれません。

■事前の⼈員体制整備が奏功、改定の影響を最⼩限に
【事例2】児童指導員を増やした放課後等デイサービスBの場合
 2つ⽬に取り上げるのは、今年4⽉の障害福祉サービス等報酬改定で、私が最も衝撃を受けた放課後等デイサービスのケースです。
 このサービスには、数年前から⺠間企業が相次いで参⼊しており、現在は“⾬後のたけのこ”のように事業所が乱⽴しています。福祉という名の下で「聖域」と思われていたこの分野でしたが、今回の改定ではサービスの質の低下を⼈員配置で補う⾒直しが⾏われました。
 確かにこの分野は、事業所が異なればサービスの質も⼤きく変わります。従って近年は、障害児の親から選ばれて継続できる事業所と、そうではなく事業を廃⽌・休⽌せざるを得ない事業所がはっきりしている状態です。
 こうした中で、児童指導員としての保育⼠や経験者の配置をできるだけ⼿厚くしてきた企業があります。1年以上前、経営者残留型のM&AでCBパートナーズを介して株式を売却した事業所Bです。
 もともと売却時には、「⼈員は潤沢」「利益は最⾼益を更新」といった状態で、Bが直⾯する課題は特にないように感じました。
 しかし、その代表によると、事業規模の成⻑が予想を上回り、業務負担が代表に集中してしまいました。Bには、代表の後継者となるような従業員がいないため、代表が体調を崩して⻑期間休まざるを得なくなれば、事業運営に⽀障が出ます。
 そうした状況で、従業員の雇⽤に将来的な不安を感じた代表は、⼤⼿の傘下に⼊ることを決意し、株式を売却しました。
 売却後もその代表は、⼈材の採⽤・管理や新規事業所の⽴ち上げ、事業買収などを⾏いながら事業所の体制を整備。児童指導員となる保育⼠の採⽤がうまくいき、他の事業所よりも⼿厚い⼈員配置に⾃信を持っていました。
 しかし、今回の改定で指導員加配加算から名称が変わった「児童指導員等加配加算」により、児童指導員らを配置する場合の単位数が減ったため、多くの事業所の収益が減りました。Bも例外ではなく、4―5⽉の業績が落ち込みましたが、⼈員の配置を⼿厚くしていたことが功を奏し、6⽉以降は収益を前年度の⽔準まで戻すことができたのです。
 このケースは、⼈員体制をあらかじめ整えるために動いていたことにより、報酬改定の影響を最⼩限に抑えることができた好事例といえます。

■「⼀⽣を介護事業に」、問われる覚悟
 ⼈件費が最も⼤きな経費である介護や福祉の業界では、常に⼈員配置基準ぎりぎりで事業所を運営することも珍しくありません。そうしなければ利益の確保が難しいケースもあるからです。しかし、予想できることへの対策をあらかじめ練ったりするなど、できることは多くあると思います。
 介護業界では近年、代表業務を継続しつつ株式を売却する経営者残留型のM&Aが増えています。これは、先を⾒据えた動きです。
 ⾃⾝や従業員の勤務・雇⽤を継続し、利⽤者に迷惑を掛けないことを考えると、「介護事業を⼀⽣続けること」が重要です。しかし、この覚悟が本当にできている事業者は多くないように感じます。
 介護業界には「漠然とした不安」がまん延しているほか、具体的に3年に1度の間隔で報酬改定という⼤きな変化が訪れることから、ほとんどの経営者が「いつかは介護事業をやめるだろう」と考えているように思えます。
 このような業界では、地域インフラの維持のためにも介護事業を⼀⽣続ける業者への再編が進むことが予想されます。既にその変化は起き始めているのです。

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